胃バリウム検査時のトラブルについて 第二報

2020年07月01日
   前回に引き続き、胃バリウム検査のトラブルについて解説します。

(3)胃バリウムと過敏症
 分子量が大きいため、消化管から一切吸収されることのないバリウムには全身的な副作用を起こすことはまず、ありません。
しかしながらバリウム製剤を長期安定させるための保存剤がわずかながら製剤に混入されているため、数千人に一人前後の頻度で皮膚に過敏症を起こす方がおります。いわゆる、「じんましん」です。体幹部や頚部、時に顔面に、扁平に盛り上がる赤い発疹が散在する方がおります。
 検査終了直後~数時間で発現します。軽度なかゆみを伴う場合と伴わない場合がありますが、通常、一日限りで消失しますので。心配は要りません。
但し、翌年にも同じ症状が出る場合もありますし、出ない場合もあります。また、過敏症を呈する方の中には症状が2度目以降に強く出る場合がありますので、出来ましたらバリウム検査を胃カメラなどに切り替えるか、中止をしておくことが無難かと思われます。
 
 
(4)発泡剤による疼痛
 胃バリウム検査の際に用いる薬剤の一つが発泡剤です。通常は縮んでいる胃を広げて撮影しやすくする発泡剤、「ゲップ」を我慢してくださいと技師から言われるあの「薬」です。胃を拡張させて撮影することは、胃の病状を正確に評価するうえで、非常に大事ですので、ゲップを我慢していただくことは撮影上、非常に大事なことなのです。が、中にはこの発泡剤で体調不良をきたす方がおります。
 急に胃の中で泡立ちすると、(製剤量は常に一定なのですが、)ひとによっては、急性胃拡張をきたして、強い胃痛を感じてしまい、痛みやめまいで検査自体を中止とせざるを得なくなる方が、年間に数人いらっしゃいます。通常は、数分間休んでいただくうちに落ち着くことが殆んどなのですが、その休む時間が30分間前後と時間が少し長引く方もおります。そうした方は胃カメラに切り替えさせて頂くか、次回からの発泡剤を一回半分量として、2回に分けて摂取するよう指示しております。そして、2回の内服の間の時間は1~2分間とさせて頂きます。この1~2分間でも胃拡張症状の頻度も程度も十分抑制できます。
 
 
 
以上、(1)~(4)にて、胃バリウム検査についての注意事項について説明をさせて頂きました。正確な理解が安全、安心の検査実施につながると考えております。

 
 

胃バリウム検査時のトラブルについて 第一報

2020年04月04日
   今回は、胃バリウム検査のトラブルについて解説します。

(1)胃バリウムと便秘症
皆様もご存じのように、胃バリウム検査は、健康診査の際、胃の病気を検出するうえで、胃カメラと同じくらい重要な検査方法です。胃カメラは胃の内側から局所局所を直に詳しく診ることにできるやや主観的な検査であるのに対し、他方、胃バリウム検査は胃の外側から胃全体を客観的に評価できる方法です。共に純日本産の技術でありまして、既に60年前後の歴史を持つ胃バリウム検査は安全に実施できる安定した検査手法です。
ただし、安全な検査とは言えども、いくつか注意を要する項目があります。その一つがバリウム後の便秘症です。
一部の方で、バリウム摂取後に、軽くはない便秘症を来す方がいらっしゃいます。程度としてはすぐ収まるごく軽度のものから、医療的処置を要するものまで種々様々ですが、稀ながらも、中には検査後に苦しい思いを数日間したといわれる方がいらっしゃいます。
特に、最近、標準のバリウム濃度が高濃度のものへ移行した時期ごろから、その訴えが少し増えたような気が致します。ただ、便秘とはいっても、通常、下剤を必ず飲む 検査後水を沢山飲む(コップで水を2~3杯すぐ飲む)、食事を早めに摂取する等の、医師や技師からの基本的な指示を守れさえすれば、ほとんどの便秘、ひどい便秘は回避できることが多いのですが(下剤摂取せずに、という方も残念ながらいらっしゃいます)、指示をきちんと守っていても、どうしても便が出ずらくなってしまったという方も年間に数件あります。そのような場合は、申し訳ないのですが、消化器科病院を受診の上、浣腸等の処置(排便誘発)を受けて頂くか、摘便と云いまして直腸内で停滞している便を掻き出す処置を受けていただく事をお勧めいたします。
実際上、常日頃から下剤を定期内服していない方は、手渡される下剤を飲むだけでけっこう早めにバリウムが全量排出されることが多いのですが、胃バリウム検査直前まで、数日間全く排便が無い方の場合は、検査を中止にしたほうが良いこともあります。
受診者の方の不安によっては、医師による腹部診察と問診の結果に応じて、検査自体を中止させて頂くこともありますのでご了承ください。

(2)胃バリウムと誤嚥
一般的に、飲み物や食べ物でも、急いで摂取すると、間違って気管に入り込んでひどくせき込むことがあります。比較的、高齢者の場合に多いのですが、中には若い方でもむせることがあります。
中には体調によっては、ご自分の唾液でさえもむせることはままあるのですが、そうしたむせる症状が胃バリウム検査の最中に起きることがあります。それがバリウム誤嚥です。
 概ね、気管の途中で落ちかけたバリウムの誤嚥ならば、咳き込むことや気管繊毛上皮の異物排出機能できれいにできるのですが、誤嚥された量が多いと肺の末しょうにまでバリウムがおりてしまうこともあります。肺まで落ちたとしても、無菌状態のバリウムですので、炎症を起こすことはほぼ無いので、肺炎等の心配はないのですが、最近増えています非抗酸菌性結核症や肺線維症、肺気腫の方はなるべくは、異物を肺、肺胞に入れないに越したことはありません。脳梗塞後遺症の方は嚥下が円滑にできないため、誤嚥しやすい傾向があります。
 検査中の誤嚥を回避するためには、注意が必要です。まず、誤嚥を回避するには慌てず、ゆっくりとバリウムを飲むことが大事です。
当施設で行っている工夫の一つですが、以前の記録上、バリウム検査にて誤嚥ありと過去の記載がある場合、誤嚥をしにくくするように、コップの辺縁に切り込みを入れ、飲みやすく形状を変えたものを使い、かつ、バリウムの量自体も少なくするよう指示を出しておくことで対処しています。尚、誤嚥した後、次回以降も繰り返す可能性大と思われる場合、次から胃カメラに検査方法の切り替えを指導させて頂くこともありますので、この点もご理解ください。 (・・・次回に続く)

 
 

なんとなく見えるで、答えたら駄目ですか?

2020年01月06日


先生、視力検査で欠けている所がもわっとして答えられません。目を細めて何とか見ようとしているのですが、駄目ですか?

  勤務先、職場環境での、通常視力を測ることが視力測定の基本原則です。
 よって、視力測定の際に持参し忘れてはいけないものが、眼鏡やコンタクトレンズ等の矯正具です。 裸眼視力で生活も仕事もこなしているという方は勿論そのままで良いのですが、そうではない方は 職場で用いている矯正具=眼鏡なりコンタクトレンズ、もしくは両方を必ず持ってきてください。検査内容によっては眼圧検査も受けている場合がありますので、コンタクトレンズを日常的に使用されている方の場合、取り外しができるようソフトレンズ装着の上、容器(もしくは眼鏡)も持参されるようお願いします。
 視力測定の手順についてですが、5m先にあるランドルト環という輪、一部が欠けた環状の図形の、その欠けた方向を「上、下、右、左」と答えて、視力の値を評価する方法が標準的視力測定です。現状では、裸眼、矯正視力のいずれかを測定していますが、基本、仕事で用いている方で測定すべきです。要望があれば両方、測定することも可能ですし、報告書に載せることもできます、
 そして、ここが重要ですが、本来は目をこらさないで、細めないで視力を測ることが測定の際の必要要件です。よって、推測や見当で(当てずっぽうで方向を)云うのは不適切な方法ですので、すべきではなく推測で当てている時点で、終わりにすべきでしょう。それと、視力測定値が揺らぎやすい方が一部におります。随分と前回値と異なるが、視力変動の手ごたえがない場合には、「乱視」が組み合わさっていることが多いようです。
 ここで、皆様に簡単な質問です。疲れ目と眼精疲労とはどう異なるのでしょうか。(用語使用上のポイントです。)
 疲れ目とは、眼球・外眼筋のみが疲れている状況です。眼精疲労とは、疲れ目が昂じたために、全身症状が発現した病態を指します。肩こり、頭痛、嘔気、めまい等などです。ご存知のように、現代社会ではパソコン、スマートフォンが仕事や生活上で手離せない重要なツール、いわば必需品に成っているわけですが、その分、高精細な画面上の小さな文字、そうした文字への凝視によって酷使されている眼への負担が、近年とりわけ大きくなっています。1時間のパソコン作業、デスクワークにつき、数分間休んで軽いストレッチ運動等で体を動かすことは、体にとっても、目にとっても、非常に良いことです。その際に、遠くの景色を見たり、目薬を点眼するのも、暖かい濡れタオル(夏場は冷たい濡れタオル)で目を覆うのも疲れ目軽減の良い方法でしょう。そうした短時間の休憩を、職場環境上とれないと主張される方の場合、ここだけの秘密ですが、トイレに行く形にすれば、気兼ねなく瞬間的に休憩が取れますとアドバイスをしておきましょう。

 
 

減量成功!でも腹囲が増えてる?!

2019年10月01日



先生、頑張って減量しました。でも、腹囲が前より増えています。
どうしてでしょう?????

  メタボ健診(特定健診)の評価判定の要(かなめ)となる測定項目であります腹囲(おなかまわり)の値は、『内臓脂肪量』推測のために厚生労働省によってH20年より導入されました。
 但し、腹囲測定値は基本、ウエストの値ではなく(誤解されている方は多いのですが)、おへその高さでの腹部全周値です。少し足を開いて、リラックスして自然に息を吐き出したところで計測します。但し、余りにもおなかが出っ張っていて、へその位置が、本来あるべき位置よりも下方にずれている(垂れている)方の場合には、肋骨下縁と骨盤(腸骨)との位置関係で測定する高さを調整しても良いという事になっています。(でも、そのようなお腹の方ははかるまでもなく、メタボ第一基準をまず満たしていますが・・)
 しかしながら、腹囲測定とはメジャーで図るという時点で相当おおまかな検査方法なのです。さらに息の吸い方とそのタイミングによりますし、太り気味の方ならば足の開き方一つでも変動するでしょう。

 さらに、この方法は、『腸管内ガス』の影響を非常に受けやすい、値が変動しやすい方法なのです。腸管ガスは、気体ですので、容積、ボリュームがそれなりに有る割に密度がかなり低く脂肪や筋肉に比べれば限りなくゼロに近いわけですし、日々というより数分単位で、量や位置が変動する腸管内ガスの影響を腹囲測定値はまともに受け変動します。受診者の方から、「この一年とても努力をして体重がこれだけ減ったのに、どうして腹囲は減っていないのか、むしろ増えているのは何故?」という声が時に聞こえてきます。

 その要因のほとんどが、この腸管ガスの変動によるものと推測されます。

 つまり、腹囲値は不確定要素である腸管ガスによって、特にゆらぎが生じやすいものなのです。勿論、腸管ガスの有無、多少に腹囲測定値が影響されないほど太っている場合や逆にかなり痩せている場合にはメタボ「判定」には影響は出ないのですが、境界領域、ボーダーライン上に該当する方の場合、ほんのわずかガスが貯留「する、しない」だけでメタボ該当、非該当に簡単に揺れ動き変化する事があります。

 そもそも、誰でもいつでも簡単に測定できるという利点が大きくありますメジャーでの測定法はしかしながらその分、簡便法というそしりは免れないでしょう。

 厳格にて理想的な方法、選択肢としては、腹部CT検査にて臍の高さの水平断面図で腹部脂肪面積を計算して内臓脂肪量を推測するという方法もあるのですが、膨大な数の受診者にCT検査の機会を提供することは中々難しく、且つ、レントゲン線被爆の懸念もあり、実際には現在の方法が残りました。

 よって、腹囲測定値の増減で一喜一憂する必要はありません。むしろ体重増減やBMIを目安にされるようお勧めします。結果として、努力の成果として、体重が以前より減り、中性脂肪値や肝機能が改善すれば、要はそれで充分なのです。

 
 

いつものように食べているだけなのに。。。

2019年07月01日



先生、食べる量は変わらないのに、太ってきました。どうしましょう。

  連日の残業で帰宅時刻が遅くなり、就眠(直)前に食事を取らざるを得ないという日が続くと(=夕食兼夜食)、摂取したカロリーを燃やして消費する時間を十分にあてがわれないために 結果的に体重増加につながりやすいものですね。
 夕食の場合も、食事の前には2時間は開けたほうが良いと云われる所以です。
 しかしながら、上記の体重増加のメカニズムにはそれだけではなく、他の仕組みも介在しているのです。残業で帰宅時間が遅くなると自然に(or やむをえず)睡眠時間へとしわ寄せが来てしまい、深夜就眠→睡眠時間短縮→体重増加という連鎖反応もあるのです。
この辺については、実感している方も多いかと思います。実は、食欲と睡眠時間の間には少なからぬ関連性があるのです。
 レプチンという食欲を抑制するホルモンの血液中濃度は睡眠時間とその質によって大きく変動すると云われています。脂肪細胞から血中へと放出されるレプチンは睡眠不足が続くと、分泌低下のため血中濃度が低下してしまいます。そのため、食欲の抑制が効きにくくなるという訳なのです。
 ですから少なくとも2,3日に1回はぐっすりと眠れる日は確保したいものです。

 
 

先生、身長が縮みました

2019年04月04日



先生、前回結果より背が縮んでいます。もう老化現象なのでしょうか?

 ご存知の方も多いとは思いますが、身長測定値には日内変動があります。
 起床直後の身長が一番長く、就眠直前が一番短いのです。計測値が変動する幅は、実際、午前と午後の短い間でさえも4~6mm程度におよぶこともあります。

日中、立ったり座ったりすることで重力の影響にて自分自身の重みで身長は日中ゆっくりと縮んでいるというわけです。裏がえすと、ベッドなどで横になる夜間には、重力の影響が解除されますので体はもとの長さにゆるやかに戻るのです。
 
 ですから、たとえば、前回(例:昨年や半年前)の午前中に受けた人間ドックと今回の午後に受けた定期健康診査の間で身長測定値に数mm、値が食い違う、縮んでいることはあっても、何ら不思議ではなくむしろ当然なことなのです。
 
 それと、骨粗鬆症が進行中の高齢者や、最近、脊椎(腰椎)の手術等を最近受けた場合は 前回値より身長が縮んでいることはよく見かけます。

 
 

医療と人工知能について

2018年10月15日

先日 わたくしは、日本消化器病学会、日本消化器内内視鏡学会の合同北海道支部例会(=通称名:地方会)に出席致しました。その地方会のランチョンセミナーにて、講師からお聞きした話題を一つ、この場で提供致します。
今年2月より某社から既に販売が開始されている新型内視鏡、大腸カメラのお話です。

特殊機能を備えた最新鋭の内視鏡なのですが、大腸カメラの検査とは、一旦、深部大腸、すなわち盲腸まで挿入したカメラを徐々に抜去をしながら、大腸粘膜面を観察し、ポリープやがんなどの病変が隠れていないか、目視確認をしていく検査です。

検査中に、もし気になる怪しい(紛らわしい)病変があれば、必要に応じて生検鉗子という小道具を用いてその病変の「一部」をつまんで切り取り標本を採取し、顕微鏡判定を専門に行っている病理センターへその検体を送り出し詳細に調べてもらうという手順が大腸カメラの標準と成っています。
その病理学的検査の工程としては、標本をフォルマリン固定し薄く切片を作り様々な染色液で色を染め仕上がったプレパラートを顕微鏡で拡大観察して細胞の悪性度判定を行います。病変ががんなのか、癌でない(=前がん病変や炎症)のかを確認していく訳です。

ところが、その新内視鏡では なんと人工知能が搭載されておりまして 病変がありますと自動でそれを検出し警告音と画像上の矢印で、「ここにポリープ( or 陥凹型病変)があります。」と音と映像で検査担当者に(複数病変があれば繰り返し何度でも)教えてくれるのです。(機能1:病変の検出) つまり初心者の内視鏡医師でも挿入さえ出来れば、ほぼ見逃しなく観察ができるという夢のような代物なのです。

しかも、その新大腸カメラは、拡大内視鏡機能、顕微鏡相当の機能を持っており、標準で500倍拡大、最大で1000倍までの拡大が可能なのです。また、色素をカメラ担当医が病変表面に散布せねばならないのですが、染め上がる時間をしばし待って、スイッチを押して病変を拡大観察しますと、自動でその病変が がんなのか、がんでないのかを高精度でかつ短時間で自動判定してくれるのです。(機能2:病変の悪性度評価)

こうした工程が一病変当たり2分前後かかるそうですが、通常の病理センターへ検体を提出する場合(現在の通常手順・標準工程では最終的病理判定結果が戻るまで平均7日かかります。新大腸カメラではその場で2分余りで結果が出るという優れものでなのす。

しかも拡大内視鏡でのピットパターン分析によって病変の悪性度判定のみならず、それが浅い病変なのか深い病変なのかまで評価可能なのです。つまり、病変が内視鏡的に粘膜切除術が可能なものなのか否か迄自動評価可能なのです。(機能3:深達度診断)

もちろん、当面はこうした機能はあくまでも補助であり検査の主体は医師であり人間でしょう。

尚、西欧で現在進行中の大腸内視鏡自動深部挿入機能の研究が終了・完成される日が来た場合には、上記の自動判定機能とそれがハイブリッドされ現場に提供される時が来るのかもしれないと勝手ながら私は想像をしている処です。

以上のことより推測できることですが、最近の将棋や囲碁のソフトのように、AIが人間の能力をほぼ完全に凌駕する性能に到達する時代が数年後訪れるのかもしれません。それも大腸内視鏡検査のみに限らず、画像診断や恐らくは臨床診断の領域にも及ぶことでしょう。

 

聴診のお話

2018年07月17日

本日は、聴診について少し、私の個人的印象のお話を致します。

私が巡回健診に定期的に赴いていた6年余り前のお話です。
巡回先の道東で、とある高齢の受診者から、とある嘆きの言葉を聴診を終えた後で聞きました。「最近のお医者さんは病院受診しても全くと言っていい程聴診器を当ててくれない。物足りないし、寂しいものですね。」というお話でした。

最近の病院の医師は受診者なり患者さんにほとんど胸の音も聞かないし、腹部も触らない。触れないでパソコンのモニター画面ばかりを観て診察をしているというのです。
確かに最近は血液データ、CT検査、MRI検査や内視鏡検査ばかりに重きを置いて、内科医師は診察をしているようです。目と目を合わせて聴打診、診察というのは最近は減っているようなのです。

しかし、私の場合は毎日が理学的所見であり、診察が日常業務そのものです。立場上、様々な受診者に相対することもままありますので、込み入った話をせざるえない。時には、とりわけ丁寧に時間をかけて診察をしてから話を展開するようにしています。その方が、私の話も受診者がより真摯に聞いてくれる印象ですから。

ただ、医師側の都合を言うと、極めて様々な所見の方が実際はおりますので、聴診=音を聞くことも、触診・打診=おなかに触れてしこりや痛みがないかをみることも、1~2年で習得できるほど簡単な技術ではない訳です。
良質なテキストはありませんので、数字や画像で評価できるものより却って難しいのではないかと思われます。そうした技術は、日頃から聴診・鍛錬をしていないと知識も含めてすぐさま消え去ります。医師に成りたてでは経験不足ゆえに尚のこと利用しないでしょう。

別件の話ですが、最近の内科医師は、胸のレントゲン写真はまあ読めるのですが、バリウムがとんとさっぱりという方が多いようです。ただ、若い医師は単純写真よりはCTの方が良いと思っていると推測できます。

しかしながら広い世界の中には病院さえも全くないような地域が多々あります。医療過疎の地域では、聴診打診はいまだに必須の技術です。日本は恵まれているくらいです。CTの台数が多すぎて読影できる放射線科医師が不足しているということが大きな問題に現在なっているくらいですので。

でも、実は受診者の側も、その高齢の方と同じ感想なり印象を全員が持っているというわけでもありません。受診者の方には CTやMRIの時代に、時代遅れの聴診器なんぞ、という印象を持っておられる方もおられるようです。

聴診器一本あれば、訴え=話をよく聞いた上で、目で診て(視診と言います)、触って診て(触診と言います)、聴診器で音を聞いて(聴診ですね)、指を当てて打つ音を聞く(打診ですね、スイカの実入りをみるあれです)と概ね、診断の方向は自ずと決まることが多いのです。年齢、性別、想定される疾患の年齢別頻度、重症度、緊急度を天秤にかけて、次に進める(勧める)検査を外来では決めていました。
聴診器の良いところはとりわけ、かかる費用が少なくて済み、いつでも、どこでも、誰でも、簡単に用いることが出来る事です。
今や、CTの出前も一部ではあり、ポータブルエコーの機器も販売されていますが、聴診器の高い機動性とカバーできる疾患の広さにおいては代用できるものがないと思えます。

但し、では医師側だけが良くないのかというと受診者も実はあまり協力的ではないのです。実際上、深呼吸ですらきちんとできない方、深呼吸=深く息を吸って吐いてと言っても、ほんの少ししか息を吸えない方がほとんどという印象です。

日頃から運動をしていないので深呼吸と言われても出来ないのかもしれません。でも深呼吸をきちんとしないと異常所見があってもその音が検出できない訳です。女性の方は、とかく、こんな診察なんか早く終わってほしいなと思われているのでしょうが、呼吸がおざなりだと、音が聞き取りにくくなり、却って診察時間が伸びやすいものです。もちろん、早く大きく呼吸をしてくれればこちらも早く次の方に移れる訳ですが、いやいやゆっくり息をされるとこちらもなかなか次の方に移れないものです。

しかしながら、深呼吸がきちんとできない受診者(ちょっと情けないのですが)でも最近大丈夫になりました。きちんと聴診できる道具が、強力な助っ人が10数年前から現れています。それが、電子聴診器、デジタル聴診器です。電池の交換が偶に必要ですが、小さな呼吸でも音を充分増幅してくれますのですごく聞きやすくなります。

聴診器を売っている側の建前上は、衣擦れの音をフィルター処理してくれますので衣服をめくらなくとも、衣服の上から聴診できるのです。但し、衣服二枚の上からや、厚手のブラジャーの上からでは何も聞こえませんので、その点は無敵ではありません。

さらにデジタル聴診器の利点としては、5秒間、胸に充てるだけで心拍数を自動で計算して表記してくれますし10秒間前後の聴診音を10個、内部保存できますし、その音源ファイルをブルートゥースでパソコンに転送できます。つまり、他の医師とも音を共有なり、確認してもらえるし永久保存もできるというわけです。ただ、アナログの音とデジタルの音の質がやはり違うので、私も慣れるまでに時間が少しかかりましたが、慣れればとても便利です。ボタンを押せば、実測2秒で起動します。

 

こうした聴診器のように便利に改良された機器などを今後も積極的に利用して受診者の利便性を提供していきたいと思っております。

 

血液検査について -採血-

2018年04月25日

今回は採血についてお話を致します。
痛い針を皮膚に挿して血液を採る、あの採血です。

採血については、それを受ける側として、余り得意ではない方、本当は嫌で受けたくはないという方が大勢いらっしゃると思いますが、健康診査のみならず、医療全般につき、採血=血液検査はかなめの検査法です。

現代医療において主要たる検査手法の双璧を成すものが一つには近年特に進化著しい画像検査(胸部X線検査、胃バリウム検査、腹部超音波検査、胃カメラ、眼底検査)であり、そして、もう一つが血液検査です。
 ご存知のように血液を調べることによって体内にて現在進行中の様々な生理現象なり病態生理(病状)なりが正確に、且つ、高い再現性を以て、定量、評価、診断できます。

調べられる具体的項目としては、栄養状態、塩分バランス、貧血の有無と程度、炎症反応、肝臓や腎臓等の内臓機能、各種ホルモンの値、などなどですが、その他にも沢山測定可能な項目がまだまだあります。
 確かに、日進月歩、日々着々と、多方面に渡って医学研究は進んでいるのですが、しかし残念ながら未だに、尿や便、唾液で血液の代用を任せられるというところまでは進んでいないようです。
 つまり多少とも痛い思いをしないことには、体内の病態生理を調べることはいまだに難しいようです。但し、皆さんが苦手な採血であっても必ずしも脅かすわけではありませんが、病院でのあまたある検査中ではまだしも負担、苦痛、苦悩の少ない方の検査に分類されると個人的には思われます。
 確かに採血検査は一応ながらも、侵襲性検査に大別、分類されてはいますが、身体的負担という点ではかなり低い方と思れています。実際に、もっともっと大変な苦しい検査や痛い処置が病院には沢山あります。

しかしながら、皆さんはやはり何と云っても、針刺しの痛みを忌避される方が多いようです。

採血担当者も、被採血者への負担を軽減できるよう、一度で、短時間の針刺しで済むように、刺しやすい血管(静脈)をこまめに捜したり、難しい方の場合には、局所を熱い蒸しタオルで温めたりして丁寧に準備をいたします。
 でもなかなか、深い皮膚脂肪、皮下脂肪に血管が完全に埋もれていて見えにくい、刺しにくいという方も結構いらっしゃいます。では、頑張って痩せたら、血管が見えやすくなるかというと私の狭い観察経験上はどうもそうでもないようです。

それと、太い針をさせば血液の流入速度も速くなるので針を刺している時間が短くなるのですが、でも太いなりにそれなりの刺入感はあります。細い針をさせば刺入時、針を刺したときの痛みが若干、わずかながら少ないのですが、血液流入時間=針を刺している時間はそれ相応に長めになる訳です。
 針をさす、その針の太さも痛みと関連していますし針の直径と針を指している時間とも逆相関があるからです。
 但し、200ml、400ml程の血液量を引き出すための献血用針や、人工透析で尿毒素を体からこし取る時に用いる針は、採血用の針の幾倍もの太さがあります。この理由は溶血現象等を予防するためですが、ですから医療を実施している側から見ますと常日頃用いている検診用の採血針は、誤解を恐れずに言えばとても細いほうで、かわいい太さです。(注:溶血現象とは、赤血球等の細胞成分が採血の際に血液にかかる陰圧・陽圧によって細胞が崩壊し、細胞内液が血液、血清や血漿に混入して正確な測定値が得られなく成ることです。)

それと、偶に聞かれる内容ですが、採血量は検査メニューしだいなので一概には表現しがたいのですが、概ね15~30ml前後です。全身の血液量はおおむね、50kg体重の方でおおよそ3.8リットルありますので、その程度の採血量で、貧血になることは全くありません。

但し、脳貧血の方はありえます。(一般の方は貧血と脳貧血を区別しないで、「ごちゃまぜ」にして使っている方が多い印象です。)
 体内で循環する血液中色素量が不足して疲れやすく息切れしやすくなるのが貧血であり、意識が短時間遠のく感じがしたり、あるいは意識が消失することが、いわゆる脳貧血です。諸々の要因にて一時的に脳血流量が乏しくなって正常な脳機能が維持できなくなる症状、病態が脳貧血です。

そこで追加説明しますが、それ程高頻度ではないのですが、採血の少し後に体調不良に成る方が経験上100人中2~3人概ねいらっしゃいます。そうした病態の発生要因は迷走神経反射という仕組みで起きるのですが、気が遠くなったり(ブラックアウト等)、短時間意識を失ったりしますし程度の強い方ですと短時間=数分間の間に数回、全身性痙攣発作を繰り返す方もいます。意識がないのにも関わらず全身を大きく波打ってびくびくと動かすことです。

ちょっと脅かしすぎたかも知れませんが、施設では年間に3.5~4万件前後採血をしていますが、けいれんまで起こす方は年間に1件あるかないかと云ったところでしょうか。
 稀な症状であるけいれんは別として、意識消失、その意識を失うという症状についても表現形態には個人差が相当あり多様なのですが、採血している最中に意識を失い失神する方もおれば、1~2分間、あるいは3~4分経過してから失神する方もおります。

ただ、一回でもそうした採血後(中)の失神発作が起きた方はその後も繰り返すことが多く転倒事故を起こしやすいものですから、採血後受診者の方には基本、安静にして頂くようにルールを決めているのはどこの健診機関もほぼ同様のことでしょう。それらは手間がかかるにせよ、意識消失による事故、トラブルを起こさないための配慮なり対処なのです。

取り分け、採血後に失神を繰り返しやすい方は、あらかじめベッド上に寝てもらって準備をしてから、採血を仰向けで受けて頂きしばらく安静に臥床して頂くという手順を取って対処しているのも同様の理由です。転倒した所、先に偶々何か障害物があると怪我をされる場合があります。意識がないまま倒れると回避も受け身も全くとれないからです。

ですから、当施設を「新規」に受診される方の中で
以前、採血後体調不良の経験があった場合には必ず担当者にその旨、自己申告をお願い致します。

 

そのような皆様からの情報提供なり、協力、そして施設側からの小さな配慮にて、より安全安心な健康診査を受診者の方達へ提供できるものとわたくしは考えております。

 

ピロリ菌(第2弾)について

2017年10月13日

 
 
 
 
 

前回の医学コラムでは、ピロリ菌について簡単な解説をさせて頂きましたが、
今回も、ピロリ菌(第2弾)について触れさせて頂きます。

健診検査の一環として、私は胃カメラを定期的に担当しているのですが、
その胃カメラを受けられた直後の受診者の方たちに
「検査結果を説明致しますが、(画像提示後)・・ご安心ください。異常所見は有りませんでした。あやしい所見は一切ありませんでしたので、心配ご無用です。」
と説明を致しますと、少なからぬ回数で受診者の側から
「実は父(母)が胃がんで手術を過去に受けましたので、それで今日、私も胃カメラ
を(・・覚悟を決めて・・)初めて受けたのです。でも、とても安心しました。」
という風に返答をされる方が案外いらっしゃいます。両親と同じ体質、遺伝子を持っているので心配でした、という意味が隠れていると思われるわけです。
 
 
しかしながら 皆さんも御存知のように、胃がん発症に大きく関与している要因は
いわゆるヘリコバクター・ピロリという細菌です。

 
幼少期に感染した後、胃粘膜内に定着・繁殖し、その後長年の持続感染を介して胃がん発症へとつながると云われています。この際の胃がん発現については、罹病する宿主側の遺伝子は左程関係はなく、むしろ病原体株の遺伝子の方が大きく関係しているようです。
 
中には、日本での胃がん発症の主たる要因たるヘリコバクター・ピロリという細菌の寄与度は98-99%近いとの報告もありますが、一方で諸外国ではその寄与比率は7割前後であるとも統計が報告されています。つまり、国内外で菌体自体の病原性に大きな差があるのではないかとも推測されています。
そして、数字だけをみましても、日本人の胃がん発症に関して、ピロリ菌保有は準必要条件に相当しますが、いわば十分条件ではないわけですので、とどのつまり、要するに胃がんの家族内発症は遺伝で決まっているのではなく、環境要因ということなのです。
尤も、胃がんに限らず、悪性腫瘍発症に負の貢献をしているのは遺伝子ではなく、9割以上が環境因子であると長年に渡る研究から提唱されています。遺伝子は発症の仕組み、メカニズムを説明しうるのですが、問題は発症要因の方です。

そして、ここで重要なのは環境要因が悪性腫瘍発病の原因ならば、中には工夫・努力で予防出来る場合もある、ありうるということです。
遺伝子や先天的体質のように努力で克服しがたいもの、あるいは、困難なものというわけでは必ずしもないのです。
 
そこで話を戻しますが、
以前のピロリ菌感染様式としては、幼小児期に、生活用水を井戸水やポンプで汲み上げた地下水に依存していた方がその時に感染して持続感染による胃粘膜荒廃をきたし引いては胃がん発現に至るという構図でした。
しかしながら、最近は上水道のみならず下水道も完備した環境で生活している方がほとんどですので、ピロリ菌の新規感染比率は激減しているのですが、それでも実は、「0」には成っておりません。数%の比率で若年者にもピロリ菌保有者を認めます。
それは何故か。親や周囲の人間からもらうことが有るのです。知らないうちに唾液を介して伝染していると云われています。咀嚼して子供に食事を与えたり、熱い食事でやけどをしないようにと熱冷ましでふうふう口で吹いてから食事を与える。そういったことを介して伝染するのではないかと推測されています。現代は、ピロリ菌の伝染様式も時代とともに変化していると云われています。

ピロリ菌除菌専門外来の医師の話では「だからこそ、除菌をしてほしい。孫や子供にうつしたくないので。うつす前に治したい。」という方も稀にいらっしゃるそうです。
確かに、今までの研究上、「持続」感染をきたすのは、幼少期に感染した場合のみのようです。ではなぜ、幼小児期のみに感染時期が限定されるのか、ということなのですが、
実は、消化液成分の一つである胃酸には、食物に含まれる細菌を死滅させる働きも併せ持っており、食物や水分を介した細菌侵入を阻止する強い働きがあるのです。
幼い時期は、胃の細胞も未成熟のため、胃酸が細菌を死滅させるほどには分泌されません。

ピロリ菌の話ではありませんが、先日病原性大腸菌O157に集団感染した方の内、3歳の女児が不幸にして亡くなられた事象が有りますが、大人は胃酸で病原体の菌数を激減させることできるのですが、女児は免疫能力自体も未成熟な上、胃酸による消毒機能も低いままであったことが、他の成人と明暗を分けた要因なのかもしれません。


尚、大人の場合、成人してから感染はしないのか?と尋ねられる場合があります。

感染はするにはするのですが、急性胃粘膜病変、急性十二指腸病変と呼ばれる高度な急性胃炎等をきたすことがあります。ただし、この場合は炎症をきたす期間が極めて限定的で、ほぼ殆ど大半は自然に治ってしまうと云われています。
この場合には胃がんの発症にはつながらないと云われています。

以上、ピロリ菌について思いつくままに周辺情報を記載させて頂きましたが、ご参考にして頂ければ幸いです。