聴診のお話

2018年07月17日

本日は、聴診について少し、私の個人的印象のお話を致します。

私が巡回健診に定期的に赴いていた6年余り前のお話です。
巡回先の道東で、とある高齢の受診者から、とある嘆きの言葉を聴診を終えた後で聞きました。「最近のお医者さんは病院受診しても全くと言っていい程聴診器を当ててくれない。物足りないし、寂しいものですね。」というお話でした。

最近の病院の医師は受診者なり患者さんにほとんど胸の音も聞かないし、腹部も触らない。触れないでパソコンのモニター画面ばかりを観て診察をしているというのです。
確かに最近は血液データ、CT検査、MRI検査や内視鏡検査ばかりに重きを置いて、内科医師は診察をしているようです。目と目を合わせて聴打診、診察というのは最近は減っているようなのです。

しかし、私の場合は毎日が理学的所見であり、診察が日常業務そのものです。立場上、様々な受診者に相対することもままありますので、込み入った話をせざるえない。時には、とりわけ丁寧に時間をかけて診察をしてから話を展開するようにしています。その方が、私の話も受診者がより真摯に聞いてくれる印象ですから。

ただ、医師側の都合を言うと、極めて様々な所見の方が実際はおりますので、聴診=音を聞くことも、触診・打診=おなかに触れてしこりや痛みがないかをみることも、1~2年で習得できるほど簡単な技術ではない訳です。
良質なテキストはありませんので、数字や画像で評価できるものより却って難しいのではないかと思われます。そうした技術は、日頃から聴診・鍛錬をしていないと知識も含めてすぐさま消え去ります。医師に成りたてでは経験不足ゆえに尚のこと利用しないでしょう。

別件の話ですが、最近の内科医師は、胸のレントゲン写真はまあ読めるのですが、バリウムがとんとさっぱりという方が多いようです。ただ、若い医師は単純写真よりはCTの方が良いと思っていると推測できます。

しかしながら広い世界の中には病院さえも全くないような地域が多々あります。医療過疎の地域では、聴診打診はいまだに必須の技術です。日本は恵まれているくらいです。CTの台数が多すぎて読影できる放射線科医師が不足しているということが大きな問題に現在なっているくらいですので。

でも、実は受診者の側も、その高齢の方と同じ感想なり印象を全員が持っているというわけでもありません。受診者の方には CTやMRIの時代に、時代遅れの聴診器なんぞ、という印象を持っておられる方もおられるようです。

聴診器一本あれば、訴え=話をよく聞いた上で、目で診て(視診と言います)、触って診て(触診と言います)、聴診器で音を聞いて(聴診ですね)、指を当てて打つ音を聞く(打診ですね、スイカの実入りをみるあれです)と概ね、診断の方向は自ずと決まることが多いのです。年齢、性別、想定される疾患の年齢別頻度、重症度、緊急度を天秤にかけて、次に進める(勧める)検査を外来では決めていました。
聴診器の良いところはとりわけ、かかる費用が少なくて済み、いつでも、どこでも、誰でも、簡単に用いることが出来る事です。
今や、CTの出前も一部ではあり、ポータブルエコーの機器も販売されていますが、聴診器の高い機動性とカバーできる疾患の広さにおいては代用できるものがないと思えます。

但し、では医師側だけが良くないのかというと受診者も実はあまり協力的ではないのです。実際上、深呼吸ですらきちんとできない方、深呼吸=深く息を吸って吐いてと言っても、ほんの少ししか息を吸えない方がほとんどという印象です。

日頃から運動をしていないので深呼吸と言われても出来ないのかもしれません。でも深呼吸をきちんとしないと異常所見があってもその音が検出できない訳です。女性の方は、とかく、こんな診察なんか早く終わってほしいなと思われているのでしょうが、呼吸がおざなりだと、音が聞き取りにくくなり、却って診察時間が伸びやすいものです。もちろん、早く大きく呼吸をしてくれればこちらも早く次の方に移れる訳ですが、いやいやゆっくり息をされるとこちらもなかなか次の方に移れないものです。

しかしながら、深呼吸がきちんとできない受診者(ちょっと情けないのですが)でも最近大丈夫になりました。きちんと聴診できる道具が、強力な助っ人が10数年前から現れています。それが、電子聴診器、デジタル聴診器です。電池の交換が偶に必要ですが、小さな呼吸でも音を充分増幅してくれますのですごく聞きやすくなります。

聴診器を売っている側の建前上は、衣擦れの音をフィルター処理してくれますので衣服をめくらなくとも、衣服の上から聴診できるのです。但し、衣服二枚の上からや、厚手のブラジャーの上からでは何も聞こえませんので、その点は無敵ではありません。

さらにデジタル聴診器の利点としては、5秒間、胸に充てるだけで心拍数を自動で計算して表記してくれますし10秒間前後の聴診音を10個、内部保存できますし、その音源ファイルをブルートゥースでパソコンに転送できます。つまり、他の医師とも音を共有なり、確認してもらえるし永久保存もできるというわけです。ただ、アナログの音とデジタルの音の質がやはり違うので、私も慣れるまでに時間が少しかかりましたが、慣れればとても便利です。ボタンを押せば、実測2秒で起動します。

 

こうした聴診器のように便利に改良された機器などを今後も積極的に利用して受診者の利便性を提供していきたいと思っております。